課題背景
- 令和元年、埼玉県西部地区4消防本部管内の119番通報を受け付け、出動指令を共同で行う新たな共同消防指令センターの設置について検討が開始されました
- 8市8町1村119万人規模(計画当時)という、大規模な共同消防指令センターの構築を支援する高度かつ専門性の高い技術力を持つ設計コンサルタントが必要とされました
- 令和3年度において価格・技術力・実績等を総合評価して最適な事業者を選定する、「プロポーザル方式」を行うためのコンサルティングが求められました
イ・エス・エスの取り組み
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ベンダー選択からプロジェクト進捗管理まで積極支援
新たな共同指令センターの構築においては、広域エリアに対応し高機能・最先端ICTを取り入れることが構想されました。そこで、構築を依頼するベンダーの選択は、従来の入札方式ではなく、要求水準書を満たしながら企画提案力を含めた総合的な評価で事業者を選定するプロポーザル方式に決定。この方式を、発注者を支援しながら推進するノウハウを持つ設計コンサルタントとしてイ・エス・エスが指名競争入札で選定されました(令和3年度:基本設計業務、令和4年度:発注者支援業務及び工事監理業務(2ヵ年))。
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構築・設置過程で浮上した新たな問題にも適切に対処
実際に構築・設置段階に入ると、現場ではいくつかの課題が新たに発生しました。その度にイ・エス・エスがベンダーに選定された日本電気株式会社(NEC)と発注クライアントである「埼玉西部地域消防指令事務協議会/埼玉西部消防局」の間に立って情報を整理しつつ、自らも課題を抜本的に解消する解決案を提案しました。
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地域の安全・安心を担う情報通信インフラ技術を駆使
イ・エス・エスにとっても人口100万人規模の消防指令センター共同化案件を、プロポーザル方式で進めるためのコンサルティングを行うのは初めて。これまでの公共自治体向け情報通信基盤(防災行政無線・自治体型CATV・高速ブロードバンド等)の整備事業をトータルにコンサルティングしてきたノウハウに加え、消防システムベンダー出身で経験豊富な技術者を加えたチーム体制でプロジェクトに臨みました。
共同消防指令センター設置構想とその背景
119万人を守る共同消防指令センター構想の始動
令和元年、埼玉県の西部地区で消防・救急活動を担う、埼玉西部消防局、坂戸・鶴ヶ島消防組合消防本部、比企広域消防本部、西入間広域消防組合消防本部の4消防本部は、119番通報を受け付けて消防署に現場出動を指令する消防指令センターを統合し、共同で設置することが検討されました。この構想が持ち上がった理由を、今回の共同運用事業に係る工事の総括責任者を担当した埼玉西部消防組合の末松氏は次のように語ります。
「この共同運用計画では、最先端のICTを駆使した指令設備設置のイニシャルコストが下がることも大きかったのですが、4消防本部の管轄エリアは近接している地区が多く、市境付近の災害発生箇所を正確に把握して、出動するにあたり最適な管轄消防本部の消防署に迅速に指令をかけられ、さらに他の消防署への応援出動も依頼しやすいというメリットもありました」
そして検討期間中、統合上の課題や運用上の課題を解決するため、構築を任せるベンダーを価格競争で絞る従来の入札方式ではなく、価格のみならず提案力や技術力、実績などを総合評価して最適な事業者を選定するプロポーザル方式で決めることに決定。その後、埼玉県西部地区4消防本部は、令和3年5月に「埼玉西部地域消防指令事務協議会」を正式に発足し、はじめにプロポーザル方式を進めるためのパートナーであるコンサルタントの指名競争入札による選定に入りました。

イ・エス・エスの選定
指名競争入札により、イ・エス・エスが正式パートナーに
指名競争入札とは発注者側から指名された業者のみが応札できる方式です。最終的には入札価格の最も低い業者が選定されることになりますが、指名されるには提示された資格要件を満たさなければなりません。発注者となる埼玉西部地域消防指令事務協議会(以下、協議会)は、今回のプロポーザル方式によるベンダー選定を支援する実務能力を満たす実績や技術力を持つことを資格要件に定めました。そして公示された内容を満たして応札することができた、数少ない実務遂行能力のあるコンサルタントの中から、イ・エス・エスが決まったのです。
イ・エス・エスの果たした役割
“止めることのできない現場”を支えるための知恵と技術

コンサルタントとして正式契約したイ・エス・エスは、協議会と密にコミュニケートし、全体的な事業推進プランを提示。そして共同でシステム構築の技術要件をまとめた要求水準書の策定に取り掛かりました。先ほどの末松氏は、初期の段階のイ・エス・エスの動きを次のように振り返ります。
「私どもはシステムに強い職員が限られています。そこでイ・エス・エスさんにはまずは技術的な面に踏み込んだフォローを期待しました。応札側各社の提案を私どもの視点に立って吟味し、各ベンダーの手法や機器構成の違いをわかりやすく解説してくれました。また、どのタイミングで入札し、どの段階で手続きを進めていくかといった、この事業を推進していくためのノウハウも様々な角度から提示してもらいました。プロポーザル実施要項・要領の策定時は数々の意見をいただいています」
その後に協議会は、当時の消防大学校の消防研究センターの技術研究部長を委員長とするプロポーザル選定委員会を立ち上げ、イ・エス・エスの支援を受けたプロポーザル要項・要項に従って応札した2社のベンダーの中からNECを選定しました。そして選定後は、協議会とNECの間に立ってプロジェクトをスムーズに進める役割を、イ・エス・エスが担ったのです。その様子を末松氏は次のように述懐します。
「イ・エス・エスさんは、私どもの要望を正確にNECに伝え、NECからの技術的な報告を私どもにわかりやすく噛み砕いて説明いただきました。また、途中で浮上した課題に対し、最善の解決案も提示いただきました。」
イ・エス・エスが提示した重要な課題解決は2つありました。一つは稼働中の他のシステムとの調整です。特に無線回線制御装置を更新し、新指令台と接続する際に無線システムを止めずに済む仕組みの必要性が浮上しました。共同消防指令センターは地域の安全管理上、24時間365日の一瞬たりとも止める訳にはいかないのです。この問題にイ・エス・エスは、一時的に携帯電話の回線を使用するIP無線の活用を提案し、これが利用されました。そして解決の必要に迫られたもう一つの問題が、大型の災害時に各地の無線基地局等のインフラが壊滅してネットワークが寸断された際の対処方法でした。ここでもイ・エス・エスは、センターの鉄塔に卓上固定移動局を移動し、各基地局の折返し通信機能を利用することにより管轄全エリアの現場部隊と直接通信ができる仕組みを提示したのです。
導入成果と今後の展望
先進ICTを備えた埼玉西部地域消防指令センターの誕生
こうして令和6年4月、新設された「埼玉西部地域消防指令センター」は運用を始めました。スマートフォンからの119番通報時に現場の状況を音声だけでなく映像も活用して通報できるシステムの「LIVE119」や、情報共有化システム、可搬型指令装置、音声認識機能などが付加された新指令装置が稼働を開始したのです。また、これまで問題なく稼働しており、共同運用のメリットとされていた、「指令員の効率的な共同配置」「局地的な災害等での迅速な相互応援」「関係機関との広域的な連絡体制の構築」「導入費用などの削減」を実現しています。

担当スタッフの声
地域情報化推進本部 消防グループ
消防グループリーダー
入来 敏郎
お客さまプロフィール
埼玉西部消防組合HP | http://www.saisei119.jp/ |
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埼玉西部地域消防指令センターHP | http://www.seibu-saitama119.jp/ |
所在地 | 埼玉県飯能市大字小久保291(飯能日高消防署内) |
管轄エリア | 所沢市、飯能市、狭山市、入間市、日高市、坂戸市、鶴ヶ島市、東松山市、滑川町、嵐山町、小川町、吉見町、ときがわ町、東秩父村、毛呂山町、鳩山町、越生町 |
管轄内人口 | 約119万人(計画当時) |